ロシア利権と「山本丈夫」の詐欺商法(1)

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ソチ五輪で山本丈夫が仕掛けた詐欺事件

「千年の杜」(現クレアホールディングス)がロシアの「ホマル」社との間でソチ市に人工島を建設するという合意書が締結されたのは平成20年2月14日のことだったが、この情報が実は同社の株価を吊り上げるための“材料”だったのではないか、という疑いは当初より流れていた。それから4年後の平成24年年5月15日、同社は成果も無く事業からの撤退を表明したからである。

ソチ市で第22回冬季オリンピックが開催されることが前年の平成19年7月に決定したことに呼応して、東京都内のホテルで露日投資フォーラムが開催された際に、前述の「千年の杜」と「ホマル」社による人口島の建設が発表され、埋立費用として必要とされた数百億円のうち100億円以上の資金が、香港系投資ファンドに発行した新株予約権が同年の5月から6月にかけて行使されたとの発表があった。その結果、人工島開発構想の発表前の平成20年1月には19円に過ぎなかった株価が、翌月の2月21日には一時期570円まで急騰した。

こうした株価急騰の裏で暗躍していた一人が山本丈夫(写真)だった。山本は自ら「平成3年頃から、ロシアの航空宇宙雑誌『アエロスペース』をモスクワと日本で発行する会社を経営していた」といい、「モスクワ郊外にある惑星探査機の製作を請け負う宇宙関連公団の副社長と懇意になり、同公団から実物大の惑星探査機の模型をアジア圏で販売する許可を得た」ことから「惑星探査機模型を販売する展示会を兼ねて『ロシア宇宙博』を企画し、大々的に惑星探査機模型の展示を開始しようと考えた」と周辺に語っていたが、どこまでが本当の話なのかは不明だった。

そして、「アエロスペースのつてで、ロシアのソチ市の関係者から『ソチオリンピックのためにホテル建設の発注で耐震建築技術に強い日本の会社を紹介して欲しい』と頼まれ、日本の有力者を紹介したところ、その有力者は東邦グローバルアソシエイツをソチ市に紹介し、同社がホテルの建設プロジェクトを行うことになった」と熱心に同社の株を買うよう勧めたのだった。山本が周囲に語っていたホテル(コンドミニアム)建設が、実際の発表では規模が巨大な人工島の建設になったわけだが、山本から株の購入を勧められた債権者によると、株価が500円前後まで値上がりしても山本が売らせようとしなかったために同社株を買った関係者全員が、株価が急落する中で多額の損失を被ったという。他にも山本は債権者にリゾートマンションの最上階をプレゼントするとも言っていたが、実行されることはなかった。

(写真下:確約書)

「山本は周囲の人たちを“提灯”にして、自分は売り逃げる算段だったに違いない。山本は自分が負っていた債務を『株で得た利益で相殺していただけませんか』と依頼して大量の株を買わせただけでなく、株価が500円前後になっても売らせなかった」(関係者)

その結果、この債権者はさらに2億円の損失を抱えることになった。「山本は『今、売られると非常にまずい』と言って、当初は1株500円で買い戻すと約束していた話が『1株300円ならば問題なく責任を持ち年末までに必ず実行します』と書類まで作成したが、その直後に姿をくらませ連絡も取れなくなった」という。

山本丈夫。この男も他の例に漏れず“大ボラ吹き”の謗りを免れないような話を債権者や関係者たちに振り撒いては、そのための活動資金名目で借り入れを起こすという手口を常習としていた。山本が持ち歩いた投資話はほぼ全て嘘と言っても過言ではない。本人が持ち歩いたほとんどのプロジェクトは「途中で頓挫した」というより、空想のような話を実名を多用して信用させていた。

例えば、先の「ロシア宇宙博」についてみると、山本は「この模型一式は世界に一つしか無いものとしてプレゼントするので、息子さんにでも将来常設展示場を経営させたら、それだけでも大きなビジネスになります」と言って債権者に約束して融資を受けながら、模型販売の売上金が振り込まれる予定の銀行の通帳と印鑑を債権者に渡して「この口座に金がどんどん振り込まれますので、お好きな時に下してください」と言った。また「宇宙に墓地を造る」といったありえない話をもっともらしく自信を持って笑顔で話したが、模型を持って来ることも口座への入金も一切無く、全てが嘘だった。山本からある有力者を紹介して欲しいと何度も頼み込まれ、債権者が紹介すると、宇宙博やインドの美術展の会場用地を探していると言って有力者に物件を探させたにもかかわらず、事業計画が頓挫しても詫びることもなかった。

(写真下:「ブローカー要注意人物」リストに山本の名がある)

過去には「デマントイドジャパン」という会社で代表取締役を務めた平成19年ごろに「日本ウラル鉱山」を吸収合併して以後、ロシア資源開発と宝飾品の販売を同社の事業目的にしたが、同社は投資詐欺で警視庁生活経済課に元社長が逮捕されたバルチックシステムとの関係が取りざたされた経緯がある。

デマントイドとは石の名前だが、そもそもデマントイド石がレアメタルではない上に、同社が会社案内に「金融商品取引法につきましては、株式会社JSKパートナーズを通じて、金融庁関東財務局へ第二種金融商品取引法の届け出を提出済み」と記した文章について、「届出を提出しただけでは投資勧誘はできない。受理されれば登録番号が発行され、それを掲示しなければならない。ちなみに金融庁の登録業者リスト(PDF)には、デマントイドジャパンという業者は登録されていない。なお、『第二種金融商品取引法』という法律はない。おそらく『第二種金融商品取引業者』の間違いだろう」(「ホンネの資産運用セミナー」より)という指摘があった。

「同社の株券を担保にします。最低でも10億円以上の評価があります」と言って、山本は債権者に持ち込んだが、実際には前述の通り二束三文の価値しかなかった。先の関係者が言う。

(写真下:金銭借用証書(10億3000万円))

「こうした類のウソはいくつもあって、土地や別荘等の不動産、リゾート施設の会員権など多くを担保に持ってくると言いながら、実行されたためしがなく、また実兄(山本克彦)がブリヂストンに勤めていて、『いずれ社長になることが内定している』と言っていたが、それも嘘だった。山本との関係は、20年以上も前にゴルフ場の工事代金名目で3億円を山本に貸したのが始まりだった。この時は約束通り3ヶ月程度で返済されたため、その後も友好的な関係が続き、多い時には週に3回以上、少なくても週に1回くらいの割合で銀座や赤坂の高級クラブ等で飲食を共にした」という。そうした付き合いの中で、山本はいくつもの事業計画を持ち込んでは債権者から借り入れを行っていた。

「千葉県内の山林を担保に融資の依頼があって、実際に融資したそうだが、その山林には道路がないという情報が山本を債権者に紹介した男から聞こえてきたので、債権者がその話をすると、山本は慌てて『誰から聞いたのですか?』と尋ね返したので紹介者と答えた。すると、後日、山本が紹介者にひどく噛み付いたという話が聞こえてきたそうだ。おそらく山本はその山林で債権者からさらに借入をしようと狙っていたのだろう」という話もあったようだが、それでも「債権者は山本の話を聞いてやり、頼み事は全て聞いてやっていた」と多くの関係者が口を揃えて言う。(以下次号)

2019.12.04
     
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