〔資産家の「息子」をでっち上げて約定書を乱発〕
9000億円の資産を有しているとも言われる「秋田義雄」という人物は、その莫大な資産を形成した歴史や義雄自身の人となりが一般にはほとんど知られておらず謎の部分が多い。そこで、それを悪用して「秋田義雄の長男 義行」という架空の人間を作り上げ、約30年以上もの間、ある会社経営者を騙し続けた揚げ句、その嘘が発覚しそうになった時に会社経営者を殺そうとした、とんでもない男が松本信幸である。
(写真下:松本信幸)
「平成25年9月5日付の秋田義行からの約定書に基づき、同年9月21日付で金220億円に、同年8月から平成30年12月までの分割金の内、金9000億円より、2回分の150億円を加算した370億円を現金ネットにてお支払いたします」
と書かれた「約定書」が会社経営者の手元にある。そのただし書きには「尚、秋田義行からの約定書の内容について責任を持って実行すると共に私に何かあった時には全て貴殿に譲渡いたします」(平成25年9月13日付)という文言が続いていた。
秋田義行への事業協力で、松本には200億円からの報酬が約束されている、というのが、松本が会社経営者に説明する「秋田義行との約定」ということだった。さらに松本は秋田義行の直筆になる“指示書”を会社経営者に渡し、いつでもその資金を会社経営者への返済金に充当できると嘯いたのである。松本が会社経営者に提示したその“指示書”は以下の通りだった。
(写真下:秋田義行(架空の人物)が書いたとする指示書)
【〇〇〇 殿 現在、自宅にある金員370億円は全て松本信幸の所有物であり、現在、私が行っている作業の担保として預かっているものなので、松本信幸の指示に従い、すみやかなる移動に協力する事。会長には私から連絡するので、宜しくお願い致します。 2013.10.31 秋田義行 ㊞ 】(本誌注:会長とは秋田義雄のこと)
会社経営者が松本に貸し付けた資金の総額は、平成15年現在で約26億円余りになっていたが、これは借金を重ねるばかりで返済が全く無いために現在に至る30数年分の金利が元本に加算された数字はさらに膨らむ。松本への貸付はまさに“泥棒に追い銭”の類に違いないが、秋田義雄という日本でも有数の資産家がバックについていると豪語しつつ、義雄の名前のみならず子息義行の直筆の支払約定書を提示されれば、会社経営者ならずとも信用してしまうのではないか。秋田義雄やその関係者が、この記事を読んで松本に対して法的措置を取ったとしても、何ら不思議は無い。
松本は「秋田氏の自宅に住み込んでいて、長男である義行氏と極秘裏にさまざまな事業計画を進めており、その報酬として200億円を受け取ることになっている」と吹き込んでいたのである。松本が自宅に戻るのは年に一度、正月の数日くらいしかないというほど義行との事業に入れ込んでいるかのような口ぶりだったという。時には「義雄氏の別荘がある箱根の強羅まで出向き、義男氏の指示で接客にも対応している」と言って、義雄からいかに信頼されているかを吹聴していた。そして、その事業計画を会社経営者に話すに当たっては、「情報が他に漏れると絶対にまずいので、毎日夕方の5時に社長の自宅に電話をします。電話に出るときには周囲には誰もいない状態にしてください」と言って唆し、さらに「盗聴されてはいけないから」とも言って、いつも公衆電話から一方的に電話を架けてきたために、会社経営者は詳細を確認することもできないままだったという。それでいて、会社経営者が「秋田氏を紹介して欲しい」と言うたびに、「今は香港に行っている」とか「面識のない人には会いたがらない」と言って、会わそうとはしなかった。
(写真下:秋田義行(架空)の約定書)
こうした言動を、松本は平成19年から同26年まで7年にもわたって繰り返し、会社経営者はその間、慶弔事にも出られなかったほどだったというが、さすがに嘘が発覚する状況が起きた。
「松本が『秋田義行の家に取り敢えず20億円を取りに行く』と言うので、松本の運転するワンボックスカーに乗ると、途中で一人ピックアップすると言って京王プラザホテルに立ち寄った。ホテル西口の玄関先で待ち受けていた男(後に松本は元田と言っていた)を乗せると、男は一番奥の座席に座ったが口は利かなかった。しばらく走って世田谷代田の商店街に入ったとき、奥に座っていた元田が『顔を見られるといけないので、背をかがめてください』と言うので体を横に倒した直後、元田が私の腕に注射器を刺そうとしたので、咄嗟に払いのけた。松本に車を停めさせ一旦車を降りて、『どういうことだ!?』と問い詰めると、『テストしたんです』と訳の分からないことを言う。どうやら注射器の中身は劇薬だったようで、元田が『打たれたら30秒以内で意識を失う』と言っていた。そして、『横須賀に20億円以上の金が置いてあるので行きましょう』と元田は言ったが、そんな話を信用することはできず、松本に京王プラザホテルに戻るように言った。ホテルに着くと、元田がさっさと降りてしまったため、松本に自宅マンションまで行くよう指示した。しばらくして元田が車に乗り込むときに大量のビニール袋を持っていたことを思い出し、自分を殺してバラバラにする積もりだったかも知れないと考えるようになり、本当は、代田の商店街で車を停めさせたとき、あるいはホテルに着くまでの間で警察を呼べば良かったと痛感した」
松本はとんでもない殺害未遂事件まで起こしたのだ。会社経営者は後日、松本を呼び、その際に元田について尋ねると、「あの男は死んだそうです」と素っ気無く答えたという。会社経営者が松本に迫った結果、松本は遂に真実を話さなければいけないという事態になり、秋田義雄と一面識もなければ、義雄には「義行」なる子息はおらず、松本が作り上げた全く架空の人物だったことまで白状したのである。松本は秋田義雄以外にも江川雅太(6億円を融資するという書面を作成)、星野勇(リクルート株を大量購入すると約束)など4~5人の名前を出していたが、それらの話も全て作り話だった。手の込んだ偽造書類をいくつも作ったり、儲け話を創作するなど尋常ではなく、嘘が通用しなくなると見るや会社経営者の殺害計画まで実行したのだから、実に恐ろしい男だ。(以下次号)