海外流出資金470億円は今や1000億円超(7)

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〔逮捕寸前に鈴木が土下座して懇願〕
鈴木義彦は、自らの資金繰りで手形と借用書以外にも物品を持ち込み、言い値でA氏に買ってもらっていた。特に平成10年5月頃、ピンクダイヤモンド(1億3000万円)とボナールの絵画(1億7000万円)を一旦はA氏に言い値で買わせておきながらボナールの絵画は「近々持参する」と言って一度も持参しなかった。その後、「ピンクダイヤと絵画を3億4000万円で売らせてほしい」と言って5月28日にピンクダイヤモンドを持ち出したほか、A氏が保有していた高級腕時計、バセロンの時計4セット(1セットの参考上代価格が10億円相当 世界一流図鑑参照)に加え、上代が1億円前後の時計5本(パティックやピアジェ)なども「売らせて下さい」と言って平成9年10月頃から平成10年4月頃にかけて、A氏から複数回に分けて預かったまま返却もしなかった。それらの総額は、鈴木が最低売却代金として提示した金額で言えば7億4000万円に上る(バセロンの時計3セットを担保に6億円を借り入れした、との鈴木の側近の証言がある)。貸金返還請求訴訟では、代金合計7億4000万円を損害賠償債務として請求した。

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ところが、鈴木は「ピンクダイヤモンドと絵画は合計3億円にて買受けることに」した上で、平成9年10月15日付で借受けた3億円を「売買代金を原債務として準消費貸借により貸金」とした。したがって、「原告からエフアールに対して金3億円は交付されていない」などと、支離滅裂な主張を法廷で展開した。

鈴木の主張にある嘘は、そもそもピンクダイヤモンドと絵画は、鈴木が資金繰りのためにA氏に持ち込んだものであり、しかも言い値の3億円でA氏が買い受けたという事実を隠して、鈴木が「買受けることにした」という点である。

A氏がピンクダイヤモンドと絵画を買受けたのは平成10年5月頃のことだったが、鈴木はさらに約7ヶ月も前の平成9年10月15日にA氏が3億円を貸し付けた際の借用書を持ち出し、この3億円がピンクダイヤモンドと絵画の売買代金であり、その支払は約7カ月前に準消費貸借による貸金として金銭消費貸借借用証書が作成された、という。誰が見ても、そんな言い訳が通らないことはすぐに分かる。

ところが、裁判官は鈴木とA氏の主張でどちらが正しいのか、虚偽かを認定せず、鈴木が「売らせて欲しい」と言って持ち出したという手続の正当性や可否だけを論じて、7億4000万円の債務を負うべきはエフアールで鈴木ではないと結論付けたのだ。

判決によると、「原告によれば、合計45億円相当の価値を有するという本件腕時計を合計4億円で販売することを委託するというのは、そもそも経済的に極めて不合理な行為というほかない」としつつ「販売価格の決定過程に関する客観的かつ合理的な説明はされていない」とした。またピンクダイヤモンドと絵画についても「原告から本件絵画等の販売委託を受けたのはエフアールであり、被告個人ではないというべきである」としたが、A氏と西が天野と面談した際に、天野が「(エフアールが責任を持つことなど)有り得ない」と述べており、「白紙の下部に常務取締役天野裕と書くよう鈴木に指示されサインした」とも述べた。ちなみに、天野が言う「有り得ない」とは、鈴木がA氏に提示した念書はエフアールの取締役会の決議を経ていなかったという事実に基づいていた。ちなみに平成11年9月30日付の「確認書」も同様である。
「被告が本件腕時計本件絵画等の販売委託契約の債務不履行に基づく損害賠償債務を原告に対して負うことなく、同債務を旧債務とする準消費貸借契約が原告と被告との間で成立する余地もない」と裁判官が下した判決は明らかな誤りである。

ダイヤモンドや腕時計等の上代価格と卸値に差が生じる点については「業者間では、決算対策等で差が生じるのはむしろ業界の商慣習であって、全く無いことではない」と業界関係者も言うように、そもそも論述の前提になりようがなく、それよりも問題は、鈴木が約7ヶ月も前に作成された3億円の借用書をピンクダイヤモンドと絵画の売買代金である、とした主張がどれほど荒唐無稽であるかだ。

「金銭消費貸借借用証書」はA氏が鈴木に3億円を貸し付けた際に作成されたものだが、この証書の「特約事項」には「JAIC・日本アジア(エ1)号投資事業組合加入確認書による金1億円、日本アジア投資株式会社の発行する証書を担保とする」という担保明細が明記されており、これをピンクダイヤモンドと絵画の売買代金とするなら、その旨が明記されなければならなかったはずだ。

また、同じく「念書」は、鈴木が平成10年5月28日にピンクダイヤモンドを「売らせて欲しい」と言って持ち出した際に、鈴木自ら手書きしてA氏に手交した書面だが、文面の冒頭に「販売目的で貴殿からお預かりしました」と明記している。鈴木の主張通りならば、「預かった」という言葉ではなく、売買代金はすでに「支払済み」と書かれたはずだ。そして、「売却できない場合、貴殿のご指示により速やかに返却することを確約いたします」とも書いていたが、前述したように「バセロンの時計3セットを担保に6億円を借入した」との鈴木の側近の証言があり、鈴木が詐欺横領に等しい行為を働いたのは明白だった。

なお、この5月28日という日は、親和銀行不正融資事件で鈴木が逮捕されるという情報をA氏が鈴木に伝えた当日であった。鈴木は驚愕して涙を流しつつ、その場で土下座までしてA氏から現金8000万円を借りた時、鈴木は「このご恩は一生忘れません」とまで言っていたのだが、A氏に鈴木の逮捕情報が入っているということは、すでに鈴木は警視庁から事情聴取を受けていたに違いない。それ故、A氏の所からピンクダイヤモンドを持ち出したのも同日だったことを考えると、鈴木にはそもそも売却代金を支払う気などない、計画的な行動だったのではないかという疑念が強く残る。(以下次号)

2020.09.08
     

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