〔無価値の担保で100億円の不正融資〕
鈴木は平成10年5月31日に親和銀行不正融資事件で警視庁に逮捕されたが、事件に至る経緯が触れられている。
「鈴木は親和銀行の総会屋的な役割を担っていた副島氏と出会い、その紹介により暴力団S組の組長とも知り合う」ことになったが、副島と組長が「親和銀行のスキャンダル(美人局、不正融資、背任、横領等)の情報を基に親和銀行を脅していた」という中で、鈴木は同行に対して頭取の味方と称して副島と組長を抑える役割を買って出ることになり、その見返りに地方銀行の融資額としては異例の借入金を手にした。つまり融資金の一部を貸付金やコンサルタント料名目で副島や組長に還流させることで、鈴木自身が同行経営陣に深く食い込んでいったという。
「FR社に対する融資の担保として、甲府にある古屋貴石社(注:エフアールの株主)に作らせた偽造宝石、ノモスコーポレーション・佐藤新一氏より購入した価値のない岩手の土地(山林)約40万坪、その他を差し入れた。それにより、エフアール社は総額100億円以上の資金を手に入れた」
西が鈴木と出会った頃、エフアールはひどく資金繰りに窮しており、頼みの綱は親和銀行からの融資だった。そのため、西は面識のあった“ヤメ検”弁護士の田中森一(故人)を紹介し、親和銀行の法律顧問に迎えさせた。それによって、鈴木は価値の無い油絵ほかを担保にして新たな融資20億円を引き出すことに成功したほか、西がA氏より借り出した数多くのリトグラフも担保にして15億円の融資を受けた。また、「新たに副島、組長を裏で操り、親和銀行に脅しをかけさせ、その解決金としてFR社は12億円の新規融資を手にした」というが、その手法はまさにマッチポンプで「鈴木及びエフアール社は、親和銀行側の味方である振りをして、信用されていることを逆手に取り融資を引き出していた」という。
「親和銀行を安心させるためには、鈴木が(同行の)会長、頭取、東京支店長を守る約束が必要であり、田中の肩書きが大きな役割を果たすことになって、新たに32億円の融資を受けたが、そのうちの1億7000万円を副島に、また1億円を組長に“手切れ金”として渡した。残る約29億円を鈴木個人とエフアール社の資金繰りに充てた」というが、その時鈴木は、副島や組長には受けた融資が32億円だったことは明かさなかった。鈴木は自分の資金繰りのために副島や組長を巧みに利用したことが窺えるのだ。
ところで、「エフアール社には上場をめぐる特殊な事情」があったと西は言う。それは、「会社が上場すれば、公募増資等により資金調達が出来、上場益が経営者に入るため、創業者である鈴木及びエフアールの資金繰りも楽になるのが通常であるが、鈴木のケースは違った」からだった。
「上場後の彼の構想の中に、エフアール社の株価を高く維持することにより、多額の資金調達をするというものがあったが、それが実現できなかったため、鈴木はとても苦しんでいた。FR社の株価を維持するため、知人にFR社の株を買わせたりしていたが、そのための資金を鈴木個人の借入れ等で賄っていたこと、また上場前の借金の清算を行わなければいけなかったこと、また、商売の面では、高額宝石の買取補償や、その商品のファイナンスに多額の資金が必要であったこと等で、FR社も鈴木個人も資金繰りが大変困難な状況にあった」
鈴木はエフアールを上場させるために決算を粉飾していた疑いがあり、さらに上場後も、経営が芳しくない実情を隠すために株価を維持させるのに必死となり、「知人に株を買わせる」など違法すれすれの経営を続けていた、と言っているのだ。そうした状況の中で「鈴木とA氏の出会いが1997年(平成9年)9月にあった」(以下次号)