「淀屋民則」の負の遺産を引き継ぐ妻美津子の重い責任(3)

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債権者に偽物の鎧兜や絵画を1億8000万円で売りつけて3500万円の手数料を騙し取り、揚げ句に月間の売上約5000万円以上を誇る債権者の会社のセールスマンを大量に引き抜くという事件を起こしたのが淀屋民則だった。
淀屋は債権者の会社に出入りするようになった平成の初め当時、債権者と同じ図書販売を手がける日本図書という会社の部長だったが、ある時、淀屋が「値打ちがあるものです」と言って、時価1億8000万円という鎧兜や絵画を持ち込み、債権者に購入させることで購入価格の約2割に当たる3500万円の紹介手数料を受け取っていた。ところが、その後、債権者がそれらを専門家に鑑定してもらうと、全てが偽物であった。淀屋は債権者に「偽物とは知らなかった。申し訳ありません」と詫びたことで債権者は一旦は容認したが、淀屋が最初から鎧兜が贋作であると承知のうえだったことが、その後、しばらくして判明した。
しかし、淀屋はそれ以上にやってはいけない悪事を働いた。当時、債権者の会社では、毎月5000万円以上の売上を誇る営業チームが3チームあり、社内でも常にトップを競う有望な営業マンが約20人でチームを結成していたが、あろうことか淀屋はそのチームの責任者で、日本図書に在籍中に部下であった幹部社員に近づいた。それを債権者はもちろん、誰も気に留めることが無かったため、淀屋の密かな企みが事前に発覚することは無かった。そして、淀屋は幹部社員を完全にたぶらかして、チームの営業マン全員を一気に退職させて自分の勤めている会社に引き抜いてしまったのである。しかも、引き抜かれた営業マンたちは、あろうことか、素知らぬ顔をして債権者の会社に出社して朝礼を済ませた後に淀屋の会社に行くようなことをやり、固定給だけを債権者の会社からもらっていたことが間もなくして発覚したのだ。

(写真:淀屋美津子)

債権者は営業マンを大量に引き抜いた会社を徹底的に追い詰め、その結果、会社は破綻寸前まで追い込まれた。それで淀屋は責任を取らねば収拾がつかない状況となり、債権者に最大限の謝罪をすることになった。債権者は、謝罪に現れた淀屋を許しはしたが、偽物を売りつけて騙し取った手数料のみの返還を求めた。淀屋はすぐに返済できなかったため債務弁済公正証書を作成した。その際に淀屋が妻の美津子が連帯保証をすると言い、併せて担保として美津子が勤める生命保険会社の保険に加入すると言って、実際にも手続きをしたが、保険料を払ったのはわずかの期間で、その後、夫婦ともども夜逃げ同然で姿をくらませ、債権者から逃げ回るようになった。
淀屋はこの公正証書を、その後一度書き替え、さらに債務承認書も2度書いた。最初の公正証書の作成は平成7年4月10日で、書替が平成12年12月18日、また債務承認書は平成22年11月4日と平成26年11月21日だが、この経緯を見ても分かるように、淀屋はその間に一切返済していなかった。そのため、淀屋の債務総額は令和3年12月31日現在で約2億8100万円(年21.9%の遅延損害金を含む)にも膨れ上がっていた。

淀屋は前妻との間に2人(秀樹と賢二)、美津子との間に3人(忠則、良治、満雄)の子供がいるが、これらの子供たちには散々迷惑をかけ続けていた。スーパーの店長をしている長男の忠則には「迷惑はかけないから」と言ってマンションの購入を強く勧めて、購入の名義人になってもらったにもかかわらず、ローンの返済を淀屋自身がするという約束を果たさず、結果的に忠則は自己破産を申し立てるしかなかった。また三男の満雄はプロパンガスの配達員をしているが、淀屋は満雄の中学時代の担任教師から2000万円の借金をしながら返済もせず、淀屋本人が死亡するまで家族の誰もその事実を知らなかったことから、美津子が担任教師から返済を迫られることになった。美津子は生活保護を受けていることを打ち明け、保険に加入して、自分の死亡後に下りた保険金を返済に充てるという念書を書いて差し出したことで何とか許してもらったという話まである。しかも美津子がかけている保険の毎月の保険料は次男の良治が支払っている事実を美津子自身が明らかにしていた。

債権者の関係者が夫婦で逃げ回っていた淀屋の居場所をようやく突き止め、会いに行ったとき、淀屋はすでに死亡しており、美津子が応対はしたものの、連帯保証をした責任はおろか、長い間、債務返済を滞らせてきたことに対する認識がまるでなかった。関係者が、先ずは債権者に会って謝罪することが先決ではないかと、何度も説得を試みたが、美津子は態度を曖昧にして拒み続けた。また、淀屋の死亡により生じた相続に伴う返済義務に対して、関係者が子供たちに正直な話をして、しっかりと責任を取らせるべきだと言うと、美津子は子供たちに話すという約束をしつつも、子供たちには迷惑をかけてばかりで、これ以上の負担を負わせることは出来ないと、自分たちの都合ばかりを優先した話しかしなかった。それでも、関係者が根気よく美津子に会い、また子供たち一人ひとりに会って、両親の負っている債務の実情について家族全員が話し合いの場を持ち、問題を前向きに解決するよう勧めつつ、そのためにも債権者と面談して返済についての具体的な話し合いをすべきだと説得を重ねた。
そうした中で、三男満男が妻の両親に相談をしたところ、妻の父親が美津子に電話をして、淀屋と美津子の長年にわたるあまりの無責任さと非常識な振る舞いを咎めた。美津子は債権者に対する責任放棄に等しい対応を繰り返していたので、義父が叱責したのは当然のことだった。そして義父からは相続に伴う分担金の支払いについて具体的に弁護士とも相談しながら対応する旨が伝えられた。
ところが、その後、家族全員でどのような話し合いが行われたのか、前妻の子供を除いた3人がそれぞれに相続放棄という手続きを取った。むろん、その手続きは法的に無効であるが、さらに美津子までもが自己破産の申立をしたのだ。
両親が負うべき責任を、仮に一部であろうと子供たちに課すということが、どれほど無責任で非常識であるか、美津子は満雄の義父からこっぴどく叱られ、身に染みたはずではなかったのか。その責任に対する気持ちさえ美津子は債権者に会って示そうともせず、弁護士に依頼して自己破産の申立をしたのである。ただし、美津子の破産理由が虚偽である限り、破産手続は法的にも無効であるが、淀屋自身の詐欺行為から生じた債務を連帯保証するとした美津子は、自己破産を選択するべきではないという判断をするのが人間として持つべき自覚ではないか。

淀屋美津子は、夫の民則が債権者を騙して偽物の鎧兜や絵画を売りつけて手数料を稼いだことや、債権者の会社のトップクラスの営業マンを大量に引き抜いて大きな損失と迷惑をかけた事実を全て承知していた。それにもかかわらず、美津子は淀屋とともに夜逃げ同然で行方をくらませ、返済はおろか謝罪すら一度もしなかったのである。その無責任さと非常識な振る舞いは断じて許されることではなく、また、破産手続きの依頼を受けた弁護士が、その事実経緯をどこまで美津子から聞いているかが疑われる中で、債権者の顧問弁護士より詳細が伝えられても一切応答しないまま自己破産の申立をしてしまった。弁護士の立場からすれば、少なくとも一度は事実確認のための連絡を取り、そのうえで対応を決めるべきではなかったか。それが法の番人として公正、公平を遵守する弁護士の務めではないか。
淀屋民則に対する評判は最低だが、美津子は自身の責任を自覚せず、逆に死亡した淀屋に全ての責任を押し付けるようなやり方はあまりにも悪質だ。

美津子が淀屋の債務の連帯保証責任から逃れるために、弁護士に破産手続きを依頼し、弁護士が手続きに必要な書類をまとめる中で、破産理由をもっともらしく創作したのは明白だ。淀屋が債権者に負った債務が生じた原因をすべて承知の上で連帯保証をした事実を始めとして、一旦は担保代わりにかけた生命保険をわずかの期間で失効させた揚げ句、淀屋と共に所在を不明にしてしまった無責任さ、非常識さは許されることではないし、淀屋の死亡を債権者に知らせず謝罪もしていない事などを、弁護士は債権者の顧問弁護士から通知されても一切無視したからである。弁護士が、債務の発生理由を都合よくまとめたことは明らかで、報酬目当てとしか言いようがない。そして、申立を受け付けた裁判所もまた、債務の返済経緯について美津子が共同責任を負うべき立場にあることを軽視して、免責を許可した(不許可にする理由はないとした)判断はあまりにも不公正ではないか。

裁判所が破産手続の申立件数の多さに対応できず、申立人の代理人弁護士の創作した書類を精査することも無く、ほぼところてん式に手続きを進行させてしまい、本来ならば破産はもちろん免責を許可してはならないはずの申立も許可してしまうケースが少なからずあるのは周知の事実だ。
裁判所の司法統計によれば、破産の申立件数は平成16年をピークに減少しているというが、それは裁判所が申立人に対する面談での審査を厳しくしたからではなく、個人再生法や特定調停法等の施行により、破産に係る窓口を分散したことが大きな理由になっている。それでも、全国レベルでの申立件数は令和3年で7万件を超え、担当裁判官一人ひとりが綿密に審査する許容量を超えていることは確かだろう。しかし、だからと言って手続きを機械的に進めていいはずがない。美津子のように自らの責任を放棄して破産手続きに逃げ場を求めるような人間まで破産と免責を認めてしまうのは、明らかに裁判官の職務怠慢であり職務放棄に違いない。そうであれば、申立の受理基準や審査基準を厳しくすることで適切なコンプライアンスを維持するという流れに改めるべきではないか。そして、美津子の代理人弁護士のように破産理由をもっともらしく創作するような弁護士に対しては罰則を設けることも重要と思われる。それが周知徹底されない限り、弁護士はもちろん裁判所に対する不信感を払しょくすることはできないはずだ。(つづく)

2022.10.08
     

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