松本が債権者に持ち込んだ案件は数が多く挙げればキリがないほどで、「国債の還付金」や「フィリピンの金塊」「アメリカのカジノ事業」などがあったが、松本はその度に自分が創作した「秋田義行」なる架空の投資家の名前を出し、また報酬を受け取る話もして信用させ、活動資金や事業資金を名目にして債権者から借金を重ねていった。リクルート株の大量購入もその一つだったが、それに平行して松本が持ちかけていたのが「公営競技施設株式会社 ウインズ木更津への融資4億5000万円の仲介」や「聖マリアンナ病院650億円の売買 三菱商事とコンタクト中」「浅草タウンホテル30億円の売買商談申込」などのほか数え切れないくらいの案件を持ち込んだ。口からでまかせとはいえ、よくもそれだけの作り話を吹き込んだものだ。
とはいえ、債権者に対しては口頭だけではなく、冒頭に記した「株式購入申込書」(購入者の法人名や個人名が記載されたものが6通ほど)や「状況報告」、さらには義行が手書きしたとする「約定書」など偽造書類を十数通も持ち込んでいたのだから、呆れ果てる。
松本は債権者への借金の返済を引き延ばすために新たな作り話を持ちかけ、あるいは時間を稼ぐ中で「自分の代理人で田代という人物に会って欲しい」と言ったことがあり、聞くと数人で来るというので債権者が待ち合わせのホテルに予約を入れた席に着くと、「両手の小指がほとんど欠けている手をテーブルの上に置いて、私を威圧する気でもあったようなので、『あなたは組関係の方ですか?』と尋ねると『違う』というので、『ならば、両手をテーブルから下ろしなさい』と言って、『あなたがここにいるのは、松本の借財について責任を持つということですね?』とさらに聞いたが、男は驚いた様子で『それはできない』という。松本は後日、田代が九州出身の暴力団員で、松本自身、田代に約1500万円を騙し取られたことがあったという話をしたが、いざとなると松本は、そんな小細工しかできない」という場面もあったという。
まだある。松本は「(償いに)給料はいりませんから仕事をお手伝いさせてください」と殊勝な態度を見せて債権者の会社に入り込んだが、わずか数ヶ月という短期間で約250万円以上の金が紛失していることが発覚、松本が横領した事実が判明した。その直後から松本は会社には来なくなり、以来、姿をくらませた。
債権者の手許には複数枚の謝罪文があるが、松本が謝罪文を書くに当たっては「常習的な詐欺行為を繰り返したもので、言い訳の言葉もなく、浅はかな考えでご迷惑をおかけしたことを心からお詫びいたします」とか「2人の子供たちも含め親族全員を同行して保証人に立てます」などと反省した態度を見せたが、それがまさに素振りだけだったということが、これまでの経緯を見ればよく分かる。松本という男、一見すると真面目そうに見えるが詐欺を常習的に働くことをやめられない、まさに根っからの詐欺師というほかない。ちなみに松本が債権者に吹き込んだ“儲け話”は、多くのブローカーがたむろする喫茶店があり、そこでさまざまな情報を仕込んでいた、と松本は債権者に打ち明けたという。
松本は、現在は所在不明で何をしているのか、債権者ほか関係者たちには不明で、債権者が提起した訴訟にも一切対応していない。しかもその訴訟では、娘のめぐみと息子の塁まで巻き込んでいながらまったくしらぬふりをしているのだ。松本は今も手の込んだ偽造書類を作り、資金を出しそうな人物を物色しているに違いない。「数年前に松本が謝罪に来るという知人の話があり待ったが、遂に現れなかった」と債権者の関係者は言うが、寸借詐欺に留まらず、時には反社会的勢力を使って被害者を威圧しようとしたり、未遂とはいえ殺害計画を実行するなど、こんな人間を世の中に放置して置いたら、被害者が増えるばかりではないか。ちなみに、松本は過去に名簿業者の仕事をしていた際に警視庁に逮捕された経歴もある。
前述したとおり、債権者は令和2年4月に松本と松本の債務を連帯保証をしている妻に対して債権の一部請求という形で貸金返還請求の訴訟を起こした。しかし、松本は住民票を置いている住所地には住んでおらず、しかも妻が病死していたことも判明したことから、妻に変わって長女のめぐみと長男の塁に被告を変更する手続きが取られ、松本本人とは裁判が分離して進められた。それで松本は、身勝手に逃げ回るうちに大事な家族を失っただけでなく、自分のしでかした不始末を家族全員に負担させているのだ。
2人の子供は、母親の死に伴う相続放棄の手続きをしていると裁判所に通知したが、母親が連帯保証をしていた事実は、死亡する以前から2人とも承知したので、手続き上でも認められることはない。しかも、娘と息子は松本の債務の存在を承知していただけでなく、松本が債権者から騙し取った金が自分たちの生活費や教育費に使われていた事実を十分に承知していた。それだけに、その責任を十分に自覚すべきなのだ。
この裁判をきっかけにして松本がしっかりと債権者はもちろん、子供たちとも向き合わなければ、問題は絶対に解決しない、どころか一層深刻になるだけだ。それを松本自身は何処まで分かっているのか。裁判が開始されて以降、娘のめぐみと息子の塁も、委任した弁護士を通じて松本に対し裁判に出廷するよう強く要請したが、松本は応じなかったようだ。債権者が松本に対して裁判に出廷しなければ刑事告訴も辞さないという意思表示をしていたにもかかわらず、それさえ無視したものとなった。松本には刑事事件化する事案がいくつもあるのに、出廷して謝罪の意思さえ見せないのであれば、債権者が本気で刑事告訴の手続きを進めるのは目に見えている。松本が、このまま何もかも放置して責任を果たそうとしないならば、本当に娘と息子に自身が負った債務の責任を負わせることになる。そうなったときに娘も息子もどれだけ松本を恨み、憎むことになるか。娘と息子には関係者が繰り返し連絡を取ることになるかもしれず、そうなれば日常の生活もままならなくなるのは必至だ。松本は父親としての責任を最低限でも果たすべきではないのか。ここまで謝罪の言葉すらない松本のような詐欺師はいないが、いつまで地獄をさ迷う積りなのか。詐欺師の松本は、もはや刑事告訴から事件化する事は免れない。債権者の恩情で与えられた猶予期間はとっくに過ぎている。それに、賠償責任は子供達に受け継がれ、最悪の人生の結末を迎えることになるだろう。もはや、このような状況では、松本の過去40年にわたる悪事の詳細を明らかにしていくことになるが、そうなれば本当に取り返しがつかなくなる。(つづく)