倉持茂と新井康弘を被告とする裁判で、東京地裁の一審と二審の裁判官たちが度の過ぎた過ちを冒す判決を下した。特に倉持が主導したとみられる主張の全てが虚偽に満ちていることに疑問さえ持たなかった、と疑われても当然の判決がなぜ下されてしまったのか。改めて法律の専門家が倉持の度の過ぎた悪性を踏まえた判決の誤謬を指摘する。
1 倉持と債権者の関係について
(1)債権者が倉持茂と新井康弘(ガレージZERO)を訴えた訴訟は、25年来の知人である債権者と倉持との間で、専ら倉持から、自動車の寄託や金銭の交付等種々の求めがあり、債権者がこれに応じる中で各種の契約を締結したことに関し、倉持が、平成30年12月に発生した債権者を被害者とする強盗傷人事件の直後から債権者との連絡を断ち、上記契約上の義務も悉く履行をしなかったことから、その解決を求めて行った訴訟である。
債権者は、倉持と知り合って以降、倉持の頼みを断ったことはほぼなく、倉持も周囲に債権者は自分の頼みを断らないと公言するほどであった。他方で倉持は債権者への返済をこれまでもほとんど行っておらず、また契約を含め約束事を悉く反故にしている。
(2)そもそも債権者と倉持とは、青郷氏の紹介で25年以上前に知り合っている。青郷氏は当時自動車販売業を営んでおり、債権者が青郷氏からスーパーカーなどを購入したことがきっかけで面識を得た。このころ倉持は埼玉県内に4か所店舗を持っていたが、債権者がスーパーカーを多数所有していることを誰からか聞いたようで、青郷氏に債権者を紹介してもらいたいと依頼してきた。青郷氏は倉持の素行の悪さから、倉持を債権者に紹介するのには躊躇いがあったとのことであったが、倉持が紹介して欲しいと何回もしつこくせがんできたため、止むを得ず紹介することにした。
この倉持の素行の悪さというのは、例えば、倉持を債権者に紹介する直前に、「埼玉三菱コルト自動車販売」の特販部にいた小川氏と倉持が組んで不当な利益を得ていた件がある。具体的には、小川氏は、会社には無断で、職務上その権限なく、倉持との間で、いつどこのオークション会場にて三菱のどの車輛(何色を何台)を出品して、どの価格にて落札するかを打ち合わせたうえで販売価格100万円以上の車を90万円でオークションに出し、その直後に倉持が入札し、それと同時に小川氏が落札のボタンを押すことで他社と競ることなく安価に売買を成立させ、その後、落札した倉持はその車を95万円とか98万円で転売を行うか、再度オークションに出品して現金化をして利益を出すという手口であった。これは、売上実績を作りたい小川氏と利益を上げたい倉持の利害が一致して行われたものであった。転売先が決まると小川氏は譲渡書や車検証等の必要書類を社内から持ち出して倉持に交付していたが、上記の通り、小川氏にはオークションに車両を出す権限が社内的にはなかった。そのため、小川氏は、その後に会社から訴えられて刑事事件になり、逮捕された。ただし、小川氏と倉持との間でどのような話があったのか不明だが、倉持は小川氏一人に責任を負わせ、自身は逮捕を免れた。倉持は小川氏に「出所した後は面倒を見る」という話をしていたようだが、小川氏が出所しても一切対応せず知らぬ振りを決め込んでいたようであった。
(3) 倉持は、債権者と知り合って早々に、債権者にスーパーカー20台を無償で借り受けることを依頼した。各スーパーカーは購入価格がほとんど1台5000万円以上するような車ばかりだったため、通常であればそれらを無償で貸すことはないが、倉持が、債権者が分かったと言うまで何回もしつこく頼むので債権者は断りきれず、貸出料すら一切取らずに貸し出すこととした。
(4) その後、さらに倉持は、借り受けたスーパーカーのうちの1台(ジャガーXJR15)を自分がレースに使用すると言って2000万円で売って欲しいと債権者に依頼した。同車の購入価格は少なく見積もっても平均で1台1億円は下らないものであったので、当然債権者は当初はこれを断った。しかし、倉持があまりにしつこく何度も何度も依頼してくるため、最終的には根負けして売ってしまった。
そして、倉持は、債権者から極めて廉価でジャガーXJR15を譲り受けることができた途端に、青郷氏には債権者から売買の了解を得ていると嘘をついた上で、勝手に書類を作成して売買手続きを進めようとした。倉持は債権者には自身がレースに使用するためと言っていたが、実際にはジャガーXJR15の希少性からこれが販売できれば大きな利益になると考えて、最初から債権者に嘘をついて譲り受けたものだった。
そして、売買手続きにあたって車検の予備検査をどうしても取得しなければならないので、倉持から力を貸して欲しいと言われた青郷氏は、調布市にあった業者へ話を持って行った。しかし、倉持は、正規の手続きに必要な試験の費用や時間を惜しんでか、試験が不要となるように、債権者の輸入済みのジャガーXJR15について、自らインボイス等を作成し、輸入前のものであるかのように装って業者へ提出した。しかし、業者には、当該の車両が日本に輸入された際の記録が残っていたため、倉持の書類偽造が発覚した。倉持は青郷氏には「自分には既に販売先があり、債権者の了解も取っている」と言って協力させたが、ジャガーXJR15の転売利益を目的とした虚偽の話であった。
(5) このような経緯がありながら、倉持が執拗に依頼してくることもあり、債権者は倉持の頼みごとをほとんど聞いてあげる状態が続いた。
債権者は、会社の代表取締役を務める者であり、同会社は30年以上新宿センタービルに本店事務所を構えていた。入居当時、同ビルの審査は非常に厳しく、社会的信用が高く、また有名企業しか入居ができなかったが、同会社は入居審査をパスしている。また、30年に亘る入居期間中に月550万円の賃料を一度も遅滞することもなく、また、ビルのオーナーからのクレームも一切なかった。
この会社は当時、管轄する税務署管内での高額納税者として複数年に亘り名前が挙がるほど好調な業績を残しており、債権者が倉持を支援するために拠出した金銭の原資はこのころの利益金が主であり、これらは会社内の金庫に現金で保管していたものである。
なお、倉持からは債権者が暴力団関係者と関係があるかのような主張がなされているが、債権者がそのような関係を有していたら、新宿センタービルの入居審査に通らなかっただろうし、また入居後であっても速やかに退去を命じられていたことは想像に難くない。債権者の会社は、債権者が高齢になったために営業を縮小していく中で、賃貸人との関係は極めて良好なまま、平成15年に新宿センタービルから自ら退去したのであり、入居期間中の約30年間、問題は一切なかった。
また、倉持は債権者に会うたびに暴行を受けたと主張するが、債権者と倉持とは25年に及ぶ付き合いがあり、週1回程度は会社や自宅に来ていた。来訪時は倉持の友人も同行しており、暴行などなかったことを明言している。
一度だけ、債権者と倉持との間で口論になり、もみ合いとなって倉持がバランスを崩してキャビネットに頭を打ち、念のために病院に行ったことがあったが、病院から戻った倉持は債権者に「飲みに行きたい」と言って一緒に錦糸町のロシアンクラブに行った。
なお、襲撃事件の直前にはそのクラブの前に襲撃に使われた車がよく止まっていたらしく、債権者は事件後に新宿警察署の刑事から錦糸町によく行くか等と質問された。
今回の裁判で債権者が返還や支払いを求めているのも、そもそもは倉持が依頼してきたのがきっかけであり、倉持は本来そのような依頼ができるような立場ではないにもかかわらず、債権者から物品や金銭を無心し続け、最終的には返済しない言い訳のしようもなくなったために襲撃事件を起こして行方をくらませたのである。
(6) この裁判においても倉持は反論らしい反論をすることができなかった。訴訟提起は令和元年であったが、一審判決は令和5年にようやく出ている。間にコロナ禍における緊急事態宣言があるとはいえ、審理時間は非常に長いものとなっているが、当初は倉持が代理人を選任しながら代理人と協議をしていなかったとみられ、代理人が裁判官に「(倉持と)連絡がつかないため代理人を辞任する」旨を伝えたことから、裁判官が結審して判決を下すとして期日を設定した。ところが、判決当日になって、突然、代理人が弁論の再開を申し出たために、審理が再開されることになった。この間、1年以上が無駄に過ぎてしまった。だが、審理が再開されても、倉持側の書面が一向に提出されない、もしくは提出されても趣旨が不明であったり事実関係が不明瞭な記載しかされていないといった書面ばかりであったために、真っ当な審理が行われたとは言えない状況が続いたためである。裁判官から書面の内容を問われても倉持の代理人弁護士は言葉を濁したり、「本人がそう言っている」とのみ回答するだけで実質的な回答をせず、徒に時間を浪費する結果となった。
2 ジャガー等の自動車の寄託について
(1)債権者は倉持と新井に対して、債権者が所有するジャガー等の高級車合計11台を預けることとなった。これは倉持が以前に債権者から借り受けた車両20台を埼玉県内で経営していた4店舗に展示した際に、各自動車が極めて希少性の高い高級車であり、自社において展示しているのみでも業界内で注目を集めることができるものであったことに目をつけ、自身が行う自動車販売業の広告活動として使えると目を付けたことから、倉持が債権者に対して執拗に依頼した結果であった。なお、この各自動車を保管することとなったため、倉持と新井の元には貸し渡していた期間に国内外から1000件以上の問い合わせがあったとのことであった。
上述した通り、このような希少性の高い車両を保管すること自体が高い広告効果があるため、このような車両を貸し出すにあたっては貸出料を取ることが通常であり、この時貸し出した車両の価値からすれば、その貸出料は月100万円は下らないと言われている。
しかし倉持と新井は手元にそのような現金はなかったため、貸出料の代わりに貸し出される各車両を、借りている期間を利用してレストアすることを対価として借り受けることを提案してきた。貸し出されるジャガーXJR15のような高級車のレストアにかかる費用は高額になることが一般的であるため、債権者としてもそれであればと貸し出してあげることとしたものであった。
(2)しかし、倉持と新井には実際のところジャガーXJR15をレストアするほどの技術はなかったようであり、またそもそもそのような意思があったのかも怪しいものであった。倉持と新井が2年間の預かり保管中に行ったことは、借り受けているうちの一台をバラバラにし、風雨にさらし劣化させ、エンジンルームには雨水を入り込ませて毀損し、さらに部品の一部を紛失(もしくは転売)したことのみであった。また、その他の車両も展示とは名ばかりの劣悪な環境で放置され、レストアされるはずがむしろ状態を悪化させてしまっていた。
車両自体は左記のような状態であったが、倉持は債権者に対してはたびたびレストアのスケジュールを示し、またレストアをすることを約束する書面を差し入れていた。
襲撃事件直後から債権者は倉持と連絡が取れず、また車両を保管し、倉持と共同で「ガレージゼロ」の屋号で自動車販売業を営む新井は債権者に対して「倉持と倉持の付き合いのある暴力団関係者がガラスを割って車を持っていくかもしれないから早く引き上げた方がいい」などと言うため、債権者は自費で各自動車を引き上げざるを得なかったが、預けていた自動車が上記のような状態であったことには驚きを隠せなかった。また、倉持により損壊、毀損された各自動車の補修には、補修を最低限の範囲に限っても、少なくとも2400万円は要する状態であった。
(3)これに対して、裁判所は①倉持らがレストアに要する費用の見積もり取得や確認がされていない、②債権者が1台250万円もするような本格的なものではなかったと述べている、③被告倉持がここで負担合意したレストアとは本来のレストアとは異なると述べている等として、本格的なレストアを行う合意がなされたとは認められない等として上記損害賠償を認めなかった。しかし、この判決は明らかに誤審であり、全く根拠のないものであった。
(4)①倉持らがレストアに要する費用の見積もり取得や確認がされていないとする点について
上記の負担合意、特にレストアについては、本件各車両を預かるにあたり、倉持が自らレストアをするから車両を貸してほしいと申し出たものであり、債権者はこの申し入れを受けたものである。本件車両、特にジャガー XJR-15は世界で53台しかないもののうち4台を展示することが可能となり、このような希少性が高い高級車を複数台展示する際には、特に業界内では大きな話題となり、多大な宣伝効果が見込まれることから展示者から所有者に対して貸出料を支払うのが通常である。倉持のレストアをするとの申し出はこの貸出料を金銭で支払うことができないから代わりにレストアするというものであった。
確かにこの時、倉持らがレストアにどの程度かかるのか見積もりを取ってはいないようであるが、それは倉持らが、レストアをしても本件各車両を預かる経済効果との比較において採算があるかを考えるべき問題である。債権者が自らレストアを条件に貸し出すと申し出たのであれば、債権者においてもその対価性を検討する必要があろうが、本件では倉持が申し出ているものであり、債権者としては本件各車両をレストアしてくれるのであれば貸出料との厳密な対価性を求める意向はなかったのである。
そのため、①本件負担合意の際に見積もりの確認等がなされていないことは倉持らにレストアが義務づけられていない理由にはなり得ない。
(5)②債権者が1台250万円もするような本格的なものではなかったと述べていること及び③被告倉持がここで負担合意したレストアとは本来のレストアとは異なると述べていることについて
債権者が1台250万円もするような本格的なものではなかったと述べているとする点については、まさに裁判官が本人の発言を曲解し、事実認定を誤っている点である。
確かに債権者は本人尋問において、裁判官との間で以下のやりとりをしている。
【裁判官】 そうすると結局は、倉持さんたちにやってもらうという風にあなたが思っていたレストアっていうのは、この1台250万とかするようなほどの本格的なものではないっていうことですか。
【債権者】 それではありませんし、できません。
【裁判官】 じゃあそこまでのことをやってもらえるとは思っていなかった。
【債権者】 それは思っていないです。だけどもあんな汚い状態ではないと思っていましたね。ある程度のことはやってくれると思っていました。
という問答を行っている。
しかし、これは債権者において合意当初から倉持らが本格的なレストアをすることを想定していなかったことを意味するものではない。上述の通り、本件負担合意は、倉持から、特段の限定なく、レストアをするから貸してくれと申し出られたものであり、ガレージゼロの商号の下で専門業者として自動車整備業に従事する倉持が「レストアをする」というのであればそれは通常の意味の、本格的なレストアをするということを指すことは明らかである。債権者は、倉持らの技術力から、本格的な高級車整備業者が行うような完璧なレストアまではできないと考えていたために上記のような応答となったが、これを以てレストア自体をしなくてもよいと思っていたと認定することは誤りであることは明らかである。1台250万円でのレストアというのは、債権者が実際に依頼した本格的な業者が行う場合のレストア(ただし、技術料のみ)であるが、倉持らにはそれほどのレストアはなしえないという意味に過ぎない。レストアにも程度があることは倉持も認めるところであり、倉持においても自身で可能な範囲でのレストアを行うという趣旨である。そのため、倉持らには、少なくとも自身で可能な範囲でのレストアを実施する義務は倉持らに存在したものである。
また、倉持らにおいてエンジンを分解した上で組み直すといった内容のレストアを行う意思があったことは書面上も明らかである。倉持が手書きで債権者に交付したものの中には「6月15日 エンジン組立」「6月15日 エンジンルーム」等と記載があり、倉持において表面的な塗装のみならずエンジンを含めたレストアを実施する意向であったことは明らかである。また、本件車両のうち一台は、平成30年11月ころに債権者がガレージゼロを訪れた際には既にバラバラにされており、これは債権者が各車両を引き上げたときも同様であった。倉持はこれについて、順次作業を行っている途中であったと述べるが、このことからも、本件負担合意におけるレストアが「若干の凹損、傷、こすれ等の補修や磨き」に留まるものではないことは明らかである。上記のような対応のみであればバラバラに分解する必要などなかった。
(6)そのため、倉持において本件各車両をレストアする義務があることは明らかであり、裁判所の判断は明らかに誤審であった。
3 車両棄損による損害賠償請求について
(1)新井は、平成29年ころに債権者の所有するFAB マクラーレン スパイダーを預かり保管中、倉持に同車を運転させ、その際倉持は事故を起こし、同車両を棄損した。なお、同事故は、新井が債権者から同車両の車検整備等を依頼されて預かり保管中に、倉持に同業務との関連性がなく、私的に運転させた際に発生したものであった。
本件事故について、新井は、自動車修理業者として預かり保管中に起こした事故であるとしてその管理責任を認め、自らの負担で修理を行うことの他、本件事故により発生する同車に関する評価損を賠償するため、保険会社から本件事故に関して支払われた保険金の全額を債権者に支払うと合意した。
事故の原因に関して、倉持らは、裁判に至ってからはエンジンホースからの火災であり倉持らの過失による事故ではないと供述するが、倉持らが認める通り、本件車両は車検を行うために預けたものであり、債権者は、車検にあたって倉持らにおいて十分な整備を依頼したものであった。それにもかかわらず、エンジンホースの劣化による火災が発生したというのは倉持らの上記整備が不十分であったことに起因するものであって当該事故が倉持らの責任であることには変わりない。
(2)この点について新井は、修理にかかる費用について事後的に見積書を作成しているが、新井らの代理人はこれを裁判所に提出した際には、「当時の見積書のデータはなく、裁判のために作り直した」と述べていた。しかし、新井は本人尋問の際には同見積について平成30年1月7日に作成したと述べ、作成日付を偽った。
また、新井は、保険会社が見に来た際に限度額以上かかることが認定されたものの、「保険会社がもうそんだけ出るんだから、そんだけの金額いくのはどのくらいになるのかなっていう計算」のために見積書を作成したと証言した。上記の話からすれば、見積書の作成は保険会社の担当者が事故車両を確認し、保険金が限度額まで出ることが決まった後となるはずであるが、上記の発言に続く見積書の作成と保険会社の人が見に来たことの前後関係を聞いたところ、新井は「見に来る前か前後くらいです。どっちだかその辺はちょっとわからない、日にちは定かじゃないです」と前後関係は記憶にないといい、さらに、見積書の作成日についても「平成30年1月7日」と述べていたにもかかわらず、ここでは「日づけは定かじゃない」と言を翻していた。
このように新井及びその代理人の発言は矛盾に満ちており虚偽であることは明らかである。
(3) さらに新井は、裁判所において、裁判官から保険契約の内容や振り込みの証票等の提出を指示されたにもかかわらずこれに応じず、そのために保険会社に対する調査嘱託まで行われたが、事故日や契約内容が特定できないことを理由として保険会社からは回答が拒否され、上記特定に関わる情報についても新井は回答しなかった。本件保険契約の内容等については保険金が下りているということ自体は裁判上認めているところであり、一見すれば開示ができない事情はないものと思われる。新井が頑なに開示を拒むのは、保険金支払を求める請求内容と実態が異なる等、開示した場合に新井に何らかの不利益があるためだと思われる。
(4) そもそも本保険金については、平成30年ころには倉持は保険会社からの保険金は500万円になったと話しており、新井は保険は使っていないと話していた(ただし、新井は債権者に対して、電話にて、倉持に保険の話はしないでほしいと言ってきたが、債権者が「今、目の前に倉持がいる」と話したところ、新井はすぐに電話を切ってしまったことがあり、倉持らの間で意思疎通が取れておらず、互いに隠し事があるようであった)。本訴訟提起にあたっては倉持が過去に間違いなく保険金が入っていると話していたことを前提として500万円を請求したが、その後新井が保険金は800万円であったと主張した。もっとも、上述の通り、新井は振込明細すら提出せず、真実保険会社からの入金があったのかすらも明らかにしない。
(5) また、修理内容に関しても、新井は全塗装を行ったと主張するが、債権者がその後に同車両を預けた自動車修理業者でもある業者は、同車両の状況から見て、「ドア付近に修理跡が残っており、明らかに部分塗装」であり、また、全塗装したとしてもマスキング全塗装で100万円以上もかかるようなものではないと述べている。
上記の通り、新井の本保険金に関する供述は、その内容としても不合理であり、また合理的な理由なく変遷をしているものであって到底信用に足るものではない。
(6)また、倉持は上記賠償について、平成30年11月5日、新井と連名にて書面を差し入れ、事故を起こした当事者として債権者に対して、新井の債務と連帯して債務を承認したものである。
当該債務承認に関し、原判決は倉持が債権者に対して金銭的従属関係にあったとして公序良俗違反(暴利行為)などとするが、そもそも上記「金銭的従属関係」がなぜ成立し、またそれにより本件債務承認をさせたことが公序良俗に反すると判断したのか、判決には一切記載がなく具体的な根拠が全く不明である。この点裁判所は、倉持が上記書面について強迫されたと主張した点についてはそのような事実はないと明確に認めている。書面作成にあたり強迫等の事実はないと認めながら、原判決は「金銭的従属関係」があると根拠なく認定し、債務承認行為が公序良俗違反などと判断するが、このような判断が許されるのであれば高額の債務を負っている者が作成する書面が須らく暴利行為となりかねないほどの暴論である。倉持が本件債務承認に応じたのは、上記の通り、自ら車検を通すために預かっておきながら、十分な検査を行わず、かつ、自身が運転免許を有していないにもかかわらず同車両を運転して事故を起こしたことに対する責任を取るためであり、いわば倉持は本件債務を本来的に負うべき者であった。
そのため、本件債務承認は実質的にも形式的にも公序良俗違反となり得る理由は存在しない。(以下次号)