群馬県内の前橋や伊勢崎などで複数のガールズバー「マリン」を経営する丸山日吉が、債権者が高崎に所有していたビルの2階フロアーの一部を借りたいと不動産屋を介して言って来たのは7年ほど前の平成29年春のことだった。風俗系の飲食店の経営者は一般的には社会性を軽視する人間であると見られがちで、丸山の場合もその例にもれず、というより営利の追求があまりにも卑しい人間である。
丸山が賃借したのはビル2階のAとBの2区画で正式に契約を交わしたが、実は丸山は、その数年前にも他のフロアーも借りたいというので案内したことがありながら、その時は話だけでいつの間にか連絡してこなくなった経緯があったために、契約する気が本当にあるのか少々疑問があり、様子を見ることとしたところ、丸山から早期の内覧を希望したいという連絡があったので、原状回復工事が行われていないことを伝えたうえで内覧に応じることとした。それまでAとBの両区画を借りていた借主はブライダルサロンを経営していたが、その借主との契約では解約時にはスケルトンにして明け渡すこととなっていたものの、解約後に原状回復が予定されていたところに丸山から内覧したいという希望があったのだった。
内覧の際に、丸山は既に複数の店舗を経営していることや、開店資金を抑えるために居抜きでの賃貸を希望していて、現在経営している店舗についても居抜きで賃借していることなどと言っていた。そして、AB両区画についても、借りる前に原状回復工事を行わないで、そのまま利用したい旨を強く希望した。
それを聞いた債権者は、余計な工事をしなくて済むのであれば前借主の負担を減らしてあげられると思いつつ、丸山が退去の際にスケルトンにしなくていいと思われては困ると思い、「このまま引き渡すことは構わないが、退去するときにはスケルトンにして全部撤去してください」と2度ほど念を押して伝えると、丸山は「もちろんです」と応じた。
前借主が退去した当時、数年に亘り入居していた中で使用していた壁紙やタイルカーペットがそのまま残っており、仮にスケルトンではなく、原状で丸山に賃貸した場合、丸山がさらに内装に手を加えたときにその撤去を求めることができるかを当事者間で明確に定めておかなければ、退去時の紛争の要因となる可能性が高い状況であった。しかし契約で丸山は原状回復に関する特約の記載を求めなかった。また、丸山からエアコンの設置の希望があり、債権者が保有していたエアコンがあったことから、その使用を許可し、解約の際に丸山が取り外し、債権者に返却することも合わせて確認された。こうした債権者と丸山とのやり取りは、丸山が内覧した平成29年3月頃のことであったが、その後の4月3日のA区画の契約の際にも改めて丸山の同意が確認され、また4月19日のB区画の契約の際にも、A区画と同様にスケルトンでの明渡しとなることについて丸山の同意が確認された。
丸山は契約後にガールズバーとして使用するための内装工事に着手して、A区画とB区画の間の壁を撤去し、新たに個室のようなスペースを作るための間仕切壁やパーテーションを設置し、またバーカウンターを新たに設置するなどした。
ところが、丸山は内装工事を専門の業者に頼まず、従業員に指示して自分たちで工事を実施したために、専門知識がない従業員たちによる工事の結果、後に高崎中央消防署から「スプリンクラー設備が未警戒となっている」とか「散水障害が生じている」ほか「自動火災報知設備が未警戒となっている」、「感知器の移設が必要」など多くの消防法に違反していると指摘される状態になってしまったのである。
そして、これらの消防法違反については、丸山が借り受けてから最初に実施された消防検査の際に発覚して、平成30年1月30日付で高崎中央消防署消防署長名義で改善を求める通知が債権者宛に出され、同年2月14日までに改善結果と計画報告書を提出するよう指示された。この通知内容は、検査の際にも既に消防署から伝えられていたため、債権者側からすぐに丸山に連絡を取り、指摘事項の速やかな是正を求めた。
これに対して丸山は「自分が消防署に行って対応する」と言っていたので、しばらく様子を見ることにしたが、丸山は一向に対応しなかった。そのため、債権者が何度も丸山に対応を要請したところ、ようやく2回ほど高崎中央消防署に出向いて、同署から直接指導を受け、対応を協議したようであるが、結局は話を聞くだけで何らの対応もしなかった。
債権者は、消防署から是正改善を求める通知が来ていることももちろん重大だが、スプリンクラーや自動火災報知設備が機能していないことや、スプリンクラーに散水障害が生じているなどといった点が指摘されているだけに、仮に建物の内外で火災が発生した場合にビルの各フロアーへの延焼が避けられない状況にあることや、その場合に他のテナントへ甚大な被害をもたらすことが心配になり、その後も何度も丸山に是正工事の実施を要請し続けたが、丸山は一切対応しなかった。冒頭に風俗系飲食店の経営者が社会性を軽視しつつ営利追求のみに奔りがちと述べたが、丸山がその典型であることが、この事実からも明白だ。
消防署による検査が翌令和元年8月に行われたが、その際にも、丸山が是正工事をしていないために、前年1月の時と同様の指摘を受ける結果となった。消防署から是正に関わる正式な通知を受けてから1年半以上を経過しているにもかかわらず、その間何らの対応もしていないことから、債権者は更なる重い処分がなされる可能性や、火災の際の被害が甚大になる可能性が高いことを危惧し、弁護士に依頼して、一刻も早く丸山に是正工事の実施を求める通知文を丸山に送付した。通知文の送付は、令和元には10月25日付と12月18日付、令和2年には2月1日付、3月9日付、4月15日付、5月8日付、5月12日付知書と計8回にもわたったが、丸山から債権者には一切連絡がなく無視され続けた。
丸山は消防署からの是正指示を無視し、さらに債権者からの度重なる通知文の送付にも応じずに是正工事を一切しなかった。それどころか、令和元年11月18日に突然解約通知を債権者に送り付けてきたのだ。この解約通知を送る前に丸山は「解約して出ていく物件にこれ以上金をかける気はない」などと債権者側に言っており、指摘された消防法違反を是正する工事を行わないかのような発言をしていた。そのために解約通知後も債権者から「解約するとはいえ消防法に基づく是正工事は行ってもらわなければならない」ことを弁護士を通じて改めて通知したが、丸山からはやはり何らの応答もなかった。また、賃貸契約に際して、連帯保証をした丸山の妻や幹部社員に対しても同じ内容の通知文を送ったが、彼らもまた無視し続けた。賃貸契約では解約は退去の6か月前に通知することになっているため、賃料は令和2年5月分まで発生していたが、これについても丸山は令和2年の4月分と5月分の家賃と光熱費を支払っていなかった。これも、先の丸山の「解約して出ていく物件にこれ以上お金をかける気はない」とする意思の表れの一つであり、故意に支払いを止めたものと考えるほかない。
こうした経緯からも明らかな通り、丸山は、賃貸契約で負っている義務の有無にかかわらず、自身の支出を少なくするために自分勝手な行動に終始しているのが明白だ。
また丸山と連絡が取れない状態が続く中で、賃貸契約の解約予定日が経過したが、丸山からは事前にも事後にも明け渡しをいつ行い、明け渡し確認の日時をいつにする等の明渡し手続きに関する連絡も一切なかった。丸山は結局明け渡し確認をすることもなく、鍵を債権者宛に郵送するのみで明渡しをしたと強弁したのである。そんな無責任かつ非常識が許されるものではない。それに店舗運営をしていた中で、店長以下複数の従業員が鍵を保有していたことは容易に想像できることだが、丸山から返却された鍵は1本のみであった。そのため、他に鍵を持っている可能性が極めて高い以上、鍵を1本返却しただけで、明け渡しをしたとは到底言えるものではなかった。
また、鍵の返却以降も、AB両区画のスケルトン工事が未了のままであった上に、丸山の所有物と思われる残置物が多数存在していた。債権者としては速やかにスケルトン状態にして次のテナントを探したかったが、丸山とは一切連絡がつかず、残置物の処分を含めて手を付けられなかったために、止むを得ず明け渡し訴訟を提起せざるを得なかった。
しかし、丸山は当初は代理人弁護士を立てて応訴し、さまざまの虚偽主張を繰り返していたが、訴訟の終盤に入ったところで争っても勝訴の見込みがないと考えたのか、突如として丸山の代理人が辞任し、その後に新たな代理人を選任することもなかった。弁護士費用さえ惜しんだのだろうが、その結果、丸山に対しては、建物の原状回復工事費用として約250万円の支払、消防法に基づく是正工事のための費用137万円、明渡しまでの賃料相当損害金等約1150万円のほか、これらに対する年14.6%の割合による遅延損害金の支払いが命じられた。しかし、判決確定以降も丸山からは一切の支払いがなく、令和6年8月31日時点で2300万円を超える債務となっている。これに対して丸山はお金がないので払えない、店をやっているのでそこから取ればいいだろう、などと極めて不誠実な態度を取った挙句に「(債権者に)詐欺にあった」などと意味不明な発言をしており、支払義務を果たそうとしない。裁判所からは判決直後に判決文が送達されており、支払命令が出ていることを承知しながら、連帯保証人ともども一切無視している態度、そして、債権者に一通の解約通知を送りつけた後は何もかも放り出してしまうような極めて不誠実で無責任な態度を取っておいて、債権者に
謝罪の一言もないという丸山の姿勢は、人格破綻というだけでは済まず、何らかの法的制裁を受けるべきだが、もはや丸山はそういう状況になっても反省しようとする気すらなく、単に逆ギレするだけに違いない。丸山のような社会的道義的責任感がゼロの人間をこのまま放置すれば、世の中に害悪をまき散らすだけなのは自明だ。(つづく)