F1・絵画・競走馬ほか「鶴巻智徳」が夢に賭けた1200億円(3)

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〔自己破産をした後に資産を密かに売却〕

日本オートポリスの倒産から2年後の平成6年7月、鶴巻はある債権者から5億5000万円の融資を受けた。1年後の平成7年7月31日を返済期限とした公正証書が翌月の8月末に作成されたのだが、鶴巻は融資を受けるに当たって「東京目黒平町の自宅土地を担保にします」と言って権利書ほか一式を持参したが、債権者は「住居を担保に入れたとなれば、金融機関に対して信用を失くすことが目に見えているので、担保に取るのは控えます」と温情を示したので、鶴巻は感動して何度も債権者に礼を述べたという。ただし、鶴巻への貸付金が債権者の自己資金であったならばともかく、実際には債権者が知人より借り受けたものだったというから、なおさら債権者の厚意が鶴巻には身に滲みたに違いない。しかし、鶴巻は期限が来ても返済する目処が立たないまま金利の支払いさえ遅れる一方だったという。

(写真:債務弁済契約公正証書(5.5億円))

鶴巻が保有していた絵画は、先にも触れたように金融機関の担保に入っていたが、平成9年頃に鶴巻は絵画のリストを債権者に提示して「担保を解除してもらい、これを返済原資に充てる」という申し出をした。しかしそれも実際に実行の可能性が出てきたのは平成14年頃のことで、その間に鶴巻が債権者に返済したのは平成11年に3000万円、平成12年に1億4000万円の合計1億7000万円だった。

鶴巻が率いた会社群の中で日本オートポリスは巨額の負債を抱えて破産に追い込まれたが、デルマークラブ(競走馬関係)、リンド産業(シイタケ栽培)などは表向きには倒産を免れ、中核の日本トライトラストもまた倒産はしたが、債務処理ほかの残務整理を名目に業務を継続した。そして、それぞれの会社が保有する資産、例えばデルマークラブはエーピーインディの種付権(1億円超)のほかに目黒平町に土地を保有しており、またリンド産業は福島県内に1万坪を超える土地を所有(借地分を含む)していた。鶴巻も個人的に絵画(美術工芸品)を保有していたが、前述の通り金融機関の担保に入っていた関係から、金融機関がクリスティーズを始めとするオークション会社に販売を委ねるなどしたものの、実際には販売価格が折り合わずにいた。こうした保有資産は総額で約10億円から11億円と見込まれたが、一方で総額1000億円近い負債を抱えて破産宣告を受けた日本オートポリスの後始末をしつつも、10億円前後の資産がギリギリで差し押さえられなかった背景には、やはり鶴巻の“裏の顔”に遠慮する金融機関やゼネコンなどの配慮があったのかも知れない。そうした中で、債権者が鶴巻の自宅土地をあえて担保に取らなかったという厚意を、鶴巻自身が裏切るような事実がその後相次いで発覚していった。

(写真下:債務返済を約束する「念書」)

第一には、絵画を返済原資に充てると申し出た平成9年から翌10年にかけて、鶴巻が東京地裁に自己破産を申し立て、それが受理されて免責を受けたにも拘らず、債権者には事前に相談も無かったばかりか、債権者の下に破産宣告の通知が届かないような工作をしたことであった。しかも、自己破産申立の手続きを受任した松本憲男弁護士が鶴巻から「当初は1億5000万円の債務であったが、これを返済できなかったため、5億5000万円の債務を承認した公正証書を作成せざるを得なかった」と聞いていたとして、免責債務申立では債権者に対する債務を1億5000万円としたのだった。これは、債権者にとっては寝耳に水だった。関係者によると「松本弁護士は鶴巻が振り出した手形をジャンプする際にも『私が責任を持ってやらせる』と言うほどだったから、仮に鶴巻の言う話が本当であるかどうかを調査するのは顧問弁護士として当然の職務だったはずだ」という。しかし、その形跡は無かった。鶴巻及びその側近として昭和43年以来鶴巻に仕えてきた岡田瑞穂、さらには鶴巻の親族らが債権者に働いた裏切り行為を次号より明らかにする。

ちなみに、債権者に鶴巻を紹介したのは東京中野で事実上ノミ行為や闇金融業を営んでいる森重毅という人物だったが、この人物は相当な曲者であるようで、債権者に鶴巻を紹介したときに“紹介料”を要求したり、鶴巻への投資案件と称してそれぞれ1億5000万円ずつを出しあうという提案を債権者にしながら、実際には債権者だけに出資させた(鶴巻への債権を回収しようとした疑いが持たれる)など、ずる賢さは図抜けているようだ。この森重毅についても別稿で取り上げる。(以下次号)

2019.12.11
     

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