〔松尾憲之の巨額資金に飛びついた佐藤俊次〕
「世界大同基金会(以下「基金会」)は台湾から債券類を日本に持ちこみ資金化させた上で企業向けに事業資金を貸し付ける団体」という話で松尾憲之が会員を募っていた平成8年頃、「EIT」という会社の佐藤俊次が松尾が持ち歩いていた基金会の会員募集に飛びついた。EITはシステムエンジニアリングを業としてJR西日本、日立、日本ユニシス等の大手企業を取引先にしていたが、佐藤によれば、当時のEITは医療業界向けのプログラムを構築するために約43億円の資金を調達する必要に迫られ、佐藤が同社社長の小寺誠一郎に基金会の話をすると、小寺は興味を示したことから、後日、松尾が基金会の会長を務める日下重幸を伴いEITを訪ねた結果、基本合意に達して、小寺は入会金500万円の分割支払を約束して融資契約書を交わしたという。松尾と佐藤は手数料として支払われる2億1000万円(融資額の5%)を折半する約束をした。
世界大同基金会については後で触れるとして、佐藤俊次が飛びついたのは約43億円という融資金額だけではなく、世界大同基金会という組織そのものだった。
松尾によると、佐藤は東京新宿にあった基金会の事務所に日常的に出入りするようになる中で、「日下会長の機嫌を取り、運転手を買って出たり、私(松尾)の悪口を言って蹴落としを企てる一方で、私に対しても『松尾君が今の座を明け渡して、自分と入れ替わったほうが仕事も上手く行くと思うし、松尾君より押し出しが良く、弁も立つので適任者だと思う』と言った後、『松尾君の後釜についた暁には、見返りとして松尾君の債務の保証をする』とまで言った」という。
松尾は佐藤の申し出を受け入れるとともにEIT社から入る手数料のうち1億500万円の支払約定書を佐藤からもらい、それを債権者に差し入れた。しかし、EIT社への融資実行が遅れ、松尾は佐藤を連れて債権者を訪ね融資実行が遅れている理由を釈明させた。ところがその後も融資の実行が遅れに遅れた結果、平成11年4月28日、佐藤は松尾の債務のうち1億5000万円を支払う「確約書」を債権者に差し入れることになり、その日から毎週水曜日に松尾と佐藤が債権者の下に経過報告で訪れることにもなったという。
そもそも基金会が融資を実行する原資がどういうものなのかも不明な点が多かったに違いないが、それでも佐藤は債権者を訪ねるたびに同じ言い訳を繰り返した。佐藤が初めて松尾の債権者と会って2年後の平成13年12月7日、佐藤は松尾が負っていた債務25億円の連帯保証人になると言い出し、「基金会からも松尾君の借金返済に十分な報酬を戴くお墨付きをもらっています」と断言して証書に署名し押印した。
だが、佐藤が自信満々に約束したにもかかわらず、佐藤の債権者への説明には一貫性がなく、松尾が承知していた基金会の実情とも食い違っていたという。それまでの報告や説明と食い違っていることに苛立った債権者が松尾をたしなめるが、佐藤の姿勢は一向に変わらず、松尾と佐藤は時間を替えて債権者を訪ねるようになった。
佐藤の言動がおかしいと考えた債権者は松尾に指示して真相を確かめようと動き、先ずはEIT社を訪ねたという。すると、佐藤はEIT社の社員ではなく、小寺社長の知人というだけで許可もなく勝手に作った名刺を持ち歩いていることが判明した。また、松尾や債権者に告げていた住所についても、佐藤はそこに住んでおらず、3年も前に引越していた事実が大家の証言から分かったという。それを松尾が忠告すると、佐藤はしおらしく東京中野に住んでいると言ったが、その直後に転居してそのまま行方をくらませてしまったのである。
佐藤がおよそ10年にもわたって、できもしない約束や嘘の報告を繰り返したのは何故だったのか。「密約を取り交わしていた基金会の日下会長が平成23年8月に癌で死亡した。そのために基金会そのものが消滅した」からと松尾は言う。それまでの約束が全て白紙となり、後ろ盾を失くした佐藤は返済の目処も立たず、完全に姿を消してしまった。
債権者にとっては当然ながら、佐藤が自ら松尾の債務の連帯保証をし、さらに債務全額を重畳的に引き受けた行為が完全な騙しとしか映らなかった。
何よりも姿をくらませたままで一切詫びることもなければ、具体的に返済をどうするかの説明もしないでいる佐藤という人間に対する憤りが増幅するのは当然だった。特に松尾については、一旦は身軽になったはずの債務について子息の慎介が連帯保証をせざるを得なかったから、佐藤に対する憤りはひとしおだった。
ちなみに、債権者と松尾が佐藤の関係者に当たってみると、佐藤に騙されたという被害者が相次いで現れ、その数は判明しただけでも6名おり、さらに山本満からの借入金100万円ほか増える状況にあったという。特に水商売の女性や中年女性に被害者が多いという。佐藤は騙して手にした金の大半を飲食代や遊興費に費消した模様である。本誌が取り上げてきている事件師たちに共通している「悪事を働いてどうにもならなくなると、被害者には一片の謝罪もなくただ姿をくらませて逃げまくる」という例に違わず、佐藤もまた同じ行動を取っているようだが、それで事が収まると思ったら大きな勘違いで、親族全員に迷惑がかかるということが自覚できていないのではないのか。
なお、世界大同基金の原資についてはいくつもの疑問がある。例えば世界大同基金の最高責任者、山口明彦は、アメリカの連邦準備制度委員会や英国王室を含む世界通貨当局が認めると謳い、「FEDERAL RESERVE NOTES」「SILVER CERTIFICATES」等の証券を保有して、これを日本で資金化した上で企業向けの事業資金として貸し付けるとしているが、EIT社に見るように資金化の可能性は全くなかった。そう考えると、基金会の目的は実態不明の巨額資金保有をエサに会員募集を行い、その入会金や会費を貪ることにあるのではないか、とさえ思われる。仮に資金化されても、その振込先が世界大同基金会という法人ではなく、日下と山口個人名義の口座であるのも明らかにおかしい。そんなM資金まがいの基金会を材料にして人を騙し続けた佐藤俊次という男は、根っからの詐欺師といわざるを得ないのである。(以下次号)