(1)合意書に基づいた株取引の利益分配及び利益金の海外隠匿
鈴木は平成10年5月31日に親和銀行不正融資事件で警視庁に逮捕され、同年12月中旬に保釈された。鈴木はA氏より逮捕される3日前にその事実を聞かされていたこともあってか、西義輝にエフアールの存続や愛人と子供の生活費の工面等への協力を依頼していた。そうした経緯から、西は保釈された鈴木の下を日参するかのように訪ね、朝から酒浸りになっている状態を一日も早く脱して日常を取り戻すよう説得し続けた。それは、鈴木が借金を重ねてきた中で多額の債務保証をしてきた経緯があったために、西にとっても必死の説得だった。平成11年2月から3月にかけて宝林の筆頭株主が持ち株を売却するとの情報が西に持ち込まれ、これが西と鈴木にとっては利益を生み出す希望が湧くきっかけとなった。西は宝林株取得を決め5月30日までに取得資金3億円をA氏から借り受けた。鈴木と西は株式市場で宝林株の高値誘導を目論んだが、買い支え資金が維持できずA氏に協力を求めた。7月8日、A氏と西、鈴木の間で協議が持たれ、鈴木が一人熱弁を振るってA氏を説得した。結果、宝林株を始めとする株取引を行う旨の「合意書」が交わされた。そこには「今後の株取引の全てについて責任を負う」という一文が明記された。7月30日、西が「宝林株取引の利益分配」と言って15億円をA氏の会社に持参した。
(鈴木の虚偽主張)
鈴木は「A氏から資金提供を受けるために必要だという西に協力して、書面に署名したに過ぎず、それを実行するという認識はなかった。事実、その後、A氏とは株の話は一切していない」と主張した。しかし、資金協力要請でA氏を説得するに当たり熱弁を振るったのは鈴木自身で、「株式市場で20億、30億という多額の“授業料”を払い、ノウハウを学んだ。株の実務は私と西会長でやる。株取引で利益を出すには株価を維持する資金が安定的に必要で、それを社長にお願いしたい。絶対に自信がある」「これが成功しないと、社長に返済ができない」などということを何度も繰り返してA氏に訴えたのである。鈴木と西による株取引が本格化する中で、鈴木は故意にA氏との接触を避けるようになり、西はA氏に鈴木が海外に滞在中であるなどという虚偽の経過報告を繰り返した。また、鈴木の代理人であった平林弁護士は「合意書」の無効を強調する際に、その根拠を何度もすり変えた。例えば宝林株の取得資金については当初「ワシントングループの河野氏から調達」としたが、間を置かずして「売買ではなくファイナンスの依頼で、取得資金は不要だった」と言ったかと思えば「鈴木自身の自己資金」とまで言い替えた。こうした主張のすり替えは他にも重要な場面で何回もあった。そして、何より鈴木に任され宝林株に始まる取得株式の売りをすべて担っていた紀井義弘が銘柄と利益をリストにまとめ「確認書」として提出するとともに、西が株価を高値誘導し、そのタイミングで売り抜けられたのはA氏に買い支え資金を全て出してもらったからと証言している。
平成18年10月16日の協議で、鈴木は宝林株の取得資金をA氏が出した事実を認め、またその後、A氏に送った2通の手紙の中でも宝林株を取得できたのは西の実績であったことを認めていた。
(2)志村化工株の相場操縦事件への関与
平成14年2月27日、西義輝が志村化工株の相場操縦容疑で東京地検特捜部に逮捕された。志村化工株の取引をした経緯について、平成22年2月に西が自殺する際に鈴木宛に送った書面(遺書)には、次のような記述がある。
「志村化工株に関しては、もっとひどいやり方をさせた。貴殿は、当時、FR社の役員でもあった武内一美氏を私に紹介し、志村株の買収に力を貸して欲しいともちかけ、購入してくれた志村株については、後に全株を買い取るとの約束のもと、私の信用取引を利用し、1000万株以上の志村株を買わせた。貴殿は一方で、海外で手に入れた志村の第三者割当株(1株約180円)、金額にして約20億円分を売却した。この20億円の購入資金も、貴殿が調達したお金ではなく、以前に宝林社に増資で入れた資本金を、私に宝林社の安藤社長を説得させ、年利回り3%で海外のプライベートバンクに預けて欲しいと依頼までさせ、了承させる役割までやらせた。その後、海外に送金させた20億円を志村株の第三者割当増資に流用し、ウラで多額の利益を出している」
「貴殿らは、私が志村株を買っている時に志村株の売却を同時にした事で、私及び武内氏は株価操縦の容疑がかかり、その後、私と武内氏は東京地検特捜部に逮捕された。貴殿は私が逮捕される前に、自分に身の危険が迫っていることを分かっていて、何度となく私に会って、必死に口ウラ合わせを依頼した。私は、この時もまた、貴殿に騙されたと思ったが、私が本当の事を言って、貴殿が逮捕されれば、親和銀行で執行猶予の身でもあり、今まで貴殿と行ってきた三者合意による利益分の事も心配になり、私が全責任を取り、貴殿を逮捕から守る事にしたのである。私が貴殿の事を一切喋らないと約束した後、貴殿は私に頭を下げて言ったことを今でもはっきり覚えている。絶対に忘れる事はない。西会長の身の回りのことや弁護士費用、公判中の生活費用、そして三者合意での利益の分配のうち、少なくとも1/3以上の利益分に関しては、全責任を持って支払う事を約束したことだった。この志村化工事件でも貴殿を守りぬき、私だけが罪をかぶり解決したわけだ。ここまで貴殿のペースにはまるとは、私は大バカものだ」(以上抜粋)
鈴木は「志村化工株の相場操縦事件には関与していない」と主張するが、鈴木に裏切られたことに絶望した西が自ら死を選ぶに当たって書き残した書面の内容に嘘があるとは思えない。東京地検は西や武内の逮捕に前後して鈴木にも家宅捜索や事情聴取を行った。しかし、西が容疑の全てを被ったために確たる証拠が見つけられなかった、ということであって、鈴木の主張には同調できないどころか、協働した人間を貶めて平然とする鈴木の人格さえも疑う。(以下次号)