後藤は太平エンジニアリングの代表取締役で、同社は後藤一族の創業会社である。先代の後藤一之氏から社長を引き継いだのは平成8年のことで、後藤が同社に入社してからわずか9年目のことだった。典型的な世襲社長だが、後藤の金銭に対する執着は度を越していて、創業会社とは言え社長在任が長くなるにつれて後藤による会社私物化の本領が現れている。自身の年収は3億円前後(ウラで2億円)というのに、役員は軒並み1000万円前後で、本人は社用車として個人的に乗り回している車が10台ほどあるが、役員には社用であっても1台も認めておらず、年商約700億円を誇る空調設備工事業界上位企業の役員と言えども、取引先に出向くときには電車を使うという差別的な冷遇状態にある。
さらに同社は業界が厳しい雇用環境にある中でもさらに劣悪な状態にあるようで、社員の給与は「基本給」を低く抑えることで年間総支給額を圧縮しているという。民間調査機関の調査によると、新卒社員の3年後離職率は15%から20%とかなり高く、年中社員の臨時募集を行っているが、「ボーナス〇か月支給」と募集要項に謳いながら、基本給が低いために実際の手取り額の低さに失望する社員が多くいて離職につながっている。こうして、社内では上級役員から平社員まで後藤に対する怨嗟の声が渦巻いているという。
それだけではない、下請いじめも相当なもので、発注代金の値切り方も凄まじい。「一友会」という下請会社を束ねる会に対して発注のたびに見積もりを値切るだけ値切る手法を取っている。「ダンピングに応じない場合はキックバックを要求する」(同社関係者)というから、これは明らかに公正取引委員会や厚生労働省の指導対象である。こうした社員約1800人や下請会社に対する締め付けは全て後藤の指示によるもので、後藤の会社代表者としての責任は極めて重い。
これまでに後藤個人の常軌を逸した金銭感覚についても触れてきたが、後藤は後輩たちとの旅行会、飲み会(合コン)、ゴルフ等に自分から誘っておいて全て割り勘に徹しているという。合コンを開く場所は自分の店。ゴルフ場は栃木県にある自社所有の馬頭ゴルフクラブといった具合で自分の腹は痛まないどころか、これらについても後藤にとってプラスにはなってもマイナスになることは一切ない。銀座ほかのクラブのホステスの前では金持ちの自慢話に終始している後藤が、支払いになると同席者との割り勘にすることは常識で、必ず値切っている姿を想像すると、単なるドケチを超えたさもしさを感じる。周囲の人たちは仕事上の関係があるので仕方なく付き合っているが、楽しんでいる人は一人もいない。(以下次号)