藤井弘美は、松尾憲之氏の亡くなった妻の連れ子である。松尾は、債権者との約束を反故にしたまま過去にも3回、さらに昨年2月頃より失踪をして、一旦は姿を見せたものの、5月30日にまた失踪して約2年が過ぎた状況にあるが、昨年暮れから債権者の関係者が藤井弘美に何回か連絡を取り、松尾の消息を尋ねたが、何年も音信が途絶えているようで全く知らないということだった。関係者は松尾の失踪の経緯を語り、早川充美が関係している以上は松尾の安否に重大な不安が生じているので、すぐにも警察に捜索願を出した方がいいとまで言ったという。
松尾が巨額資金の誘導で招いた多くの金銭トラブルについて、弘美は少なからず承知しており、もちろん、松尾が債権者との過去40年ほどの関わりの中で多大な迷惑を被らせてきたこともよく分かっていた。松尾が、自ら招いた金銭トラブルが原因で少なくとも3回以上監禁され、命の危険に晒される事態があったが、そのたびに松尾を助け出したのが債権者であり、また松尾が嘘にまみれた作り話をして債権者から借り入れをしてきたことで多額の貸付金も発生してきた話を関係者から聴くと、弘美は表情を曇らせ、自分ではどうしていいのか分からないという言葉を返してきたという。
そこで、関係者が弘美に伝えたことは2つあり、一つは何よりも松尾の所在を突き止めて安否を確認すること。そして、もし松尾の失踪が自発的なものであれば、債権者はこれ以上待つことは限界で、債権譲渡を決断しなければならない状況になっていることの2つだった。松尾に対する債権の金額は過去の長い期間で大きく膨らんでいるために、分割して債権譲渡をすることになるだろうが、その際には、2週間もかからずに松尾の所在は掴めると思われるが、しかし松尾の所在を明らかにさせるために弘美や弘美の家族、身内にも悪い影響が出るのは間違いない点を強調した。もちろん、そうなってしまえば、債権者としては今までのように協力はできず、弘美はもちろん家族や身内全員が日常生活を安心して送れなくなるのは必至だった。
そうした関係者の話を、弘美は戸惑いながら聞いていたが、それは、過去に松尾がしでかしたさまざまな不祥事で大変な迷惑がかかったことを思い出したのかも知れない。
債権者は、いずれ松尾が連絡してくると思い待っていたようだが、この2年にわたって電話もなければ姿を現すこともなかったため、前述したように早川充美の関与が濃厚なだけに、簡単に姿を現すとは思えないという考えに変わっってきたともいう。早川は債権者に松尾の債務履行に責任を持ち、200億円を支払うと何度も断言して置きながら、債権者との連絡を一切経ってしまった。松尾の失踪は正に同時に起きていたのだ。
だが、仮に早川が松尾の失踪に関与していたとしても、第三者への債権譲渡という決断をせざるを得ない思いが強くなっているようで、弘美にとっては決断をしなければいけない正念場といえる。(つづく)